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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

「御承引で、辱ない。では、こうまいられい」

お初は、平馬のあとに跟いた。導かれながら、彼女は、思い出さずにはいられない――道場が、まだ建てかけで、板構えのあったころその物蔭で、三斎屋敷闖入を決心、がに股のちび助、吉公に打ちあけて、諫めるのを振り切って、忍び込んだのだったが、その晩、あの雪之丞に見咎められ、それがきっかけで、思わぬ成りゆきになったことを――

平馬が、道場、脇玄関の戸を、引きあけて、

「戻ったぞ」

と、いうと、妙に角張った顔の内弟子が、寝ぼけごえで、すぐ次の部屋から出て来て、

「お帰りなされまし」

と、無器用に、手を突いたが、うしろに、すんなりたたずんだ、お初をみとめて、いぶかしげだ。

「お客人をおともした」

と平馬は、いかめしく言って、

「客間に灯を入れろ」

その客間というのが、まだ壁の匂いがツンツン香る、床に掛物もかけてない、がらんとした、寒む寒むしい十二畳だった。

一四

木口こそ真新しいが、殺風景な客間に導かれたお初、皺ばんだ着物をいくらか苦にして、すんなりと坐ったが、相手は、そんな細かしいところまで気のつく男でもなさそうだ。

なぜなら、道場主の目は、なりふりよりも、まず、真っすぐに、こちらの顔にばかり注がれて、しかも異常な輝きを、白目勝ちの、殺気のようなものをいつも感じられる瞳に宿しているのだ