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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
門弟が運んで来た、酒肴――といっても、どんぶりに、つくだ煮をほうり込んだのに銚子――
――まあ、今夜は、何て貧乏たらしいお膳ばかり見なければならないのだろうね――さっきが、古寺の酒もりで、今度が、道場の御馳走――
お初は、鼻の先を皺めたが、それをかくして、
「御門弟さん、お燗は、そこでつけますから、小出しのお徳利に鉄瓶を貸して下さいましな。その方が、御面倒が無くってようござんしょうから――」
「なにから何まで、よく気がつくな、いやそれが女子――女子のいない家は、荒れ野のようなものと、昔からいうが、もっともだ」
「先生は、なぜ御妻帯なさらないのでございます? へえ、お酌――」
平馬は、楽しげに、杯をうけて、
「なぜと申して、拙者も、これまでは、武芸修業に、心魂を打ち込んで暮していたでな――ところがやはり男よ、このごろは、どうも不自由な気ばかりしてならぬ。そなたにも酌をいたそう――」
奇妙な酒宴が、此処でもはじまった。
一九
お初はいわば、心底からの悪性おんなだ。長二郎泥棒と、余儀ない破目で引き離されてから、雪之丞に心酔する熱情復活の日が来るまで、つまらぬ男たちには目もくれたくなかったのだが、しかし、その本質においては、極めて執拗で、残忍な悦楽の世界に、激しい思慕を感じていたのだ。