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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

鉄瓶の湯が、まだ熱いので、すぐに、うまい茶がはいった。

お初は、フウフウと、軽く吹いて、一口、飲んで、

「でもないのさ――兎に角、お茶はおいしいね。今夜は、つまらない相手に強いられてばかりいたので、やけに干いてならないよ。もう一杯――」

「それにしても、気になりますねえ――一たい、どうなすったのさ?」

「まあ、いいよ、あとでわかることだから――とにかく、今夜は、うちへは帰れないからだ――ゆっくり寝かしておくれな――話はあととして、お前さんも、寝ておくれ」

きゅッきゅッと、帯や、下じめを解いて、着物をぬいで、丸めて投げると、下には、目のさめるような匹田ぞめの長じゅばん――そのまま、

「お寝間のはしを汚しますッてさ。ほ、ほ、ほ」

と、冗談をいって、お杉の床にもぐり込んでしまった。

毒蛇の巣

一

世の中が、凶作よ、不作よと、騒々しいためばかりとも思われぬが、このごろずッと不入りつづき、毎月、蓋があけられるどころの話ではなく、やっと開けても、桟敷に何組、土間に幾十人と、舞台から頭がかぞえられるようなありさまで、十日と持たずに千秋楽になってしまうのが、癖のようになっていた中村座、上方から招いた菊之丞一行が加入しての、懸命の働きが功を奏して、珍しく、その月がもう日が無くなっても、押すな押すなの大入り続きなのだ。