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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
と、言いながら懐中から、書類のようなものを取り出して、
「まあ、御覧なさいませ、初日から、五日目まで、高土間、桟敷ももうみんな、売切れになりました」
菊之丞は、拡げられた香盤をのぞき込む。成程、何枚かの図面には、総て付け込みのしるしが一面に書き込まれているのだった。
「ほほう、これは素晴らしい景気でござりますな!」
「なおまた、御覧に入れたいのはお客様の顔触れで――」
と、奥役は何やら細々記した罫紙を見ながら、
「駿河町では、三星さま、油町では、大宮さま、お蔵前の札差御連中。柳橋、堀、吉原の華手やかなところはもとより諸家さま、お旗本衆――日頃御直き直きには、中々お顔をお見せにならぬお人たちも、今度は幕を張っての御見物のように承わります。その中でも、長崎の御奉行で、お鳴らしになり、御隠居になってからも、飛ぶ鳥を落すような、土部さまなどは、御殿に上ってお居での御息女が、お宿下りのお日に当るとかいうことで、初日、正面の桟敷を、御付込みになりました」
「なに、なに? 土部――?」
と菊之丞は、雪之丞の方を、チラリと眺めながら、
「どれどれ、その書き物を、お見せ願わしい」