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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
いつか、平之進の、頭巾を奪って、顔だけ包んで、臆病窓のところへ、わざとその頭を近づけて置いて、武士らしい作りごえ――
「おい、広海屋! 急用じゃ! 松枝町じゃ――」
松枝町とは、勿論、土部三斎屋敷を言っているのだ。
相変らず、狡い手口――
中では、寝入りばなを起こされたらしく、やがて、案の定、大戸の臆病窓が開いて、寝とぼけたこえが――
「どなたさま?」
「松枝町というが、聴えぬか? 主人に急用で、お文を持ってまいった」
「松枝町さま――それはそれは」
じきに、大戸が開くようだ。
八
――行りなされ、お行りなされ! どんなことでも、おぬしの望むままに、お行りなされ!
広海屋、見世うちへはいろうと、開けられた大戸の潜り、腰をかがめてもぐりこむ長崎屋の、異様なすがたを見返って、雪之丞が、そう呟いたとき、かかり合いになるのを怖れたか、かごかき達は、浜川の死骸はそのまま、かごを引っ浚って、またたく間に飛んで行ってしまったが、こちらは、まんまと、手代をあざむきおおせた三郎兵衛、中にはいると、すぐにまた、血みどろの短刀で、何か行ったに相違ない――
飛鳥のように、広海屋軒下に近づいて、耳をすました雪之丞は、つい、その土間で、突然――