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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

この闇太郎と言う盗賊――先き程、雪之丞を乗せた駕籠屋が、まるで江戸自慢の一つのように、謳った通り、今や江都に、侠名嘖々たる怪人物。生れは、由緒正しい御家人の家筋。父親が、上役の憎悪を受けて、清廉潔白の身を殺さねばならなくなったのを、子供心に見て以来、いわば、社会の不合理な組織を、憎み嘲む、激情止み難く、遂に、無頼に持ち崩し、とうとう、賊をすら働くようになった若者なのだ。したがって、天晴れの気性者。その上、身の働きの素早さは、言語に絶し、目から鼻へ抜けるような鋭い機智で、どんな場合にも、易々と、危難の淵を乗り切るのだ。

闇太郎という名乗りも、大方、自分がつけたのではなく如何なる真の闇夜をも、白昼を行く如く、変幻出没が自在なので、世間で与えた、渾名が、いつか、呼び名になったのであろう。

江戸司直の手は、最近殊に手きびしく、この怪人の行方を、追い究めていた。あまりに屡々、権門富家の厳重な緊りを、自由に破られるので、今や、警吏の威信が疑われて来ているのであった。

その闇太郎の姿を、ふっとこの晩、御蔵前通りで、見つけた町廻り同心の一行。あまりに咄嗟な出会いなので、はっとする間に、強敵の姿を見失ったが、非常警報は、八方に伝えられ、ここまで遁げ延びて、大仕事に司直の鼻をあかそうとした彼を、再び網にかけたわけなのだ。