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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

「放さぬとも! 放しませぬとも! さ、こうまいられ!」

引きずって行こうとした、その刹那、どう浪路の片手が動いたか、匕首の、鍔まで、心元を、ぐうッと突ッこまれた五助――

「わああ!」

と、わめいて、女を突きはなし、よろよろと、よろめいて、しばし怺えたが、急に、ガクリと膝を突いてしまった。

「う、う、う」

と、血刀を捨てた手で、胸を抱いて、

「わ、ああ! よくも――おのれ――」

どうにかして、立ち上って、飛びかかろうとするらしかったが、それが出来ない。

片手を、土に、もがき苦しんで、つづいて、ぐたりとつんのめッてしまった。

浪路は、血に染んだ懐剣をにぎりしめたまま、棒立ちに、見下ろしていた。

もはや、うめきも、ブツブツと、血が湧く音にまぎれてしまった。

闇は、血のいろを見せない。が、生ぐさい匂いが、プーンと、ただよいはじめた。

――わたしは、人を殺してしまった。

と、考えたが、悔いも起らぬ。

――けだもののような人――何という浅間しい――

当然だ――と、いう気持になっていたが、歯の根も合わず、ガチガチと、上下の顎が、打ッつかって、立っていられぬように、脚部が力を失った。