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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
「へえ、あのかごをね? 何でもござんせん。やりましょう」
「うまくやれ、酒手をつかわすぞ」
闇太郎は、広海屋の間近まで来ると、かごを捨てる。
二人も降りる。
闇太郎の方は、心耳すませば、軒下に立つ家の中のことは、心の瞳に、ありありと映り、柱の干割れるのまで、きこえて来るという男だ。
広海屋の、仮宅の前にたたずんだが、
――変だぞ!
と、小くびが、かたむいて、
――何も聴えねえ――それに、表が、こんなにきびしく閉っているところを見りゃあ、なみのやり方で、訪ねて来たわけじゃあねえな――
うすらわらいが、唇にうかんだが、それから、軒下をはなれて、店に沿って、ぐっと河岸にまわると、塀になる。
その塀の下を、しずかにあるいているうちに、何を感じたか、足が、ぴたりと大地に吸いついて、
――やッ! 何か気配がする。
片手が、土塀に触れたか、触れぬかに、全身が、すうと軽く舞い上って、もはや、塀の上――上でちょいと、前後を見たと思うと、音もなく、ふわりと、向う側へ――
塀の曲り角に、この容子をうかがっていた二人ざむらい――
「貴公! 早かごで、この趣きを先生へ! 拙者は、のこって、あとを見張る!」