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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
と、一人が言う。
「かしこまった。その間に動き出すようであったら、貴公、ゆく先きをつき止めたまえ!」
と、言いのこした今一人、韋駄天ばしりで駆け出すと、河岸で、かごを拾って、
「いそげ! 松枝町まで、一息にいそげ!」
かごは、矢のように走り出した。
二三
跟け人は、いかにもせよ、闇太郎は、広海屋、焼け残りの、倉つづき――その一ばん端の土蔵の方を目がけて、まるで、足裏に毛の無い、夜のけもののように、ツウ、ツウと、伝わってゆく。
そして、入口の土扉が、僅かの隙を見せて開いているのを見出すと、ためらわず、ツイと押してはいって、しめっぽい埃くさい、闇の中を、二階への階段を上って行った。
二階の奥の、金網窓の中に、たよりない赤茶けた灯火がさしていて、そこから、人ごえが洩れているのだ。
窓口まで、走り寄って見て、闇太郎、何を見出したか、さすがのつわものが、目いろを変えて、
――! アッ! あれは!
と、叫び出しそうになって、狽てて口をおさえた。
奥部屋の、異国物産が、うずたかく積まれた中に、闇太郎が見つけたものは何であったろう。
そこには、見るかげもなく、痩せ衰えた、長崎屋三郎兵衛が、敵味方同然になってしまった、この広海屋の主人与平と、こともあろうに、お互にすがりつくよう、取り付き合って、恐怖に充ち、苦痛に歪められた表情