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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

それとも、さすがは、悪の統領だったお人、わたしに刃向って見ようとするであろうか?

雪之丞は好みの、雪投げの寒牡丹の衣裳に、女よりもなよやかな身をつつんで、つつましく坐ったまま、不敵な微笑を、美しい紅い口元にうかべた。

すると、気配がして、振袖小姓がはいって来て、あるじのために褥なぞととのえた。

かすかなしわぶき。三斎隠居の姿があらわれた。

隠居は、めっきり窶れている。が、彼は、相変らず、不敵なほほえみを絶たなかった。

ひれ伏す雪之丞をながめて、

「ようこそ太夫――初下りの顔見世興行も、首尾よう大入りつづきであったよしで、目出たいな」

それには、雪之丞は、答えなかった。平伏したまま、なかなか面をあげぬ。

「雪之丞、おもてをあげなさい。何も、そううやうやしゅう致すにも及ばぬことじゃ」

雪之丞は、顔をあげたが、その頬が涙にぬれているように見える。

三斎は、その涙を見つけて、

「お、太夫、泣いているな?」

「は、御無礼、おゆるし下さりませ――つい、さまざま、思い出しまして――」

「思い出したとは? 何を?」

「わたくしめが、顔見世狂言にまねかれて御当地にまいり、中村座に出ましたはじめ、御一門さまの御見物をいただき、天にも昇る気がいたしましたが、あのおり、おさじきにお並びなされました方々が、御隠居さまをのぞきまいらせ、ことごとく