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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

「官兵衛は生きておるからな。木像では前例にならぬよ」

「綸巾をいただき羽扇をもって、常に三軍を指揮していたという諸葛孔明は、四輪車という物に乗って戦場を奔馳していたそうですが」

「孔明か、なるほど。しかし孔明の四輪車よりは、このほうが我が国の武士にはふさわしい。いちど乱軍の中を駆けてみたいものだ」

「今日にも或いは、そんなことが?」

「いやいや。今日はあるまい。伊丹で懲りている官兵衛だ。二度と拙い策は踏まん」

三木城中に臨む前から、彼には充分使命を果す確信があるような口吻だった。使命の目的はいうまでもなく、籠城の責任者に腹を切らせて、いまや餓死に瀕している全城数千の人命を助けるというにある。

その夜、官兵衛は、三木城主の別所小三郎と会見した。月明りのみで、燈火すらない城寨の一室だった。

城主小三郎は、まだ二十六歳の若大将であったが、このとき明らさまに官兵衛に語った。

「この通り燈火もないのは、燭の油も食べ尽したためです。城中、鼠の物音もしません。鼠も食べ尽しているからです」

それから種々述懐した後、小三郎はすずやかに誓約した。

「元々、筑前守のお扱いで、ひとたび織田家に盟を約しておきながら、また毛利方へ寝返ってまる二箇年の歳月、ここにたて籠って来たわれわれのことですから、それがし以下、責ある者が、腹を切るのは当りまえ