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くろだじょすい

黒田如水

吉川 英治

「週刊朝日」朝日新聞社、1943(昭和18)年1月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 163,639 字 · 325 页

青空文庫

ている現状では、なおさらのことではありませんか。長島を攻めたり、北陸を攻めたり、みな枝葉末節です。なぜ抜本直截的に、その傀儡者たる本願寺を討ち、また大挙、中国攻略の軍を決断なさらぬのか……官兵衛は実に歯がゆいと思います」

酒間のはなしには、興に入っているほど、とかく余事にわたってしまったり、ほかへ話題が反れたがるものである。――官兵衛が胸中の一端を吐いた以上のことばも、決して一気に述べたものではないが、あいての気色を見たり、杯の頃あいを量ったりして、幾たびかに以上の要旨だけを洩らし得たものであった。

というて相手の秀吉がその問題に耳を傾けないのでは決してない。秀吉はどちらかといえば自分が語るよりも聴き上手の方だった。よくひとの説を聞く。官兵衛の言には熱意を面に現わして聞くのである。けれど彼の返辞は官兵衛の熱情にくらべれば消極的なこと多分だった。

「もとより中国の問題はなおざりにしてはおけない。自分も疾くより考えているし、主君信長様の烱眼が将来の計を怠っておらるるはずもない。しかし、如何せん、織田家の四隣は余りにも多事で、先年は伊勢へ出征し、この五月には長篠の大戦を果し、兵馬を休める遑もなく、また直ちに北陸へ出軍の準備中にあるというような実状である。