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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

二〇

「わからぬかな? 忘れたかな? このわしの顔を――」

ぐっと、顎を突き出すようにして、

「いかに忘れっぽいそなたでも、まさか、わしを忘れもしまいがな?」

「わ、わすれはせぬ――わすれはしませぬ――あなたは、もとの――」

言い訳をせねばならぬような気がして、長崎屋、ここまで言いかけて、舌が硬ばってしまった。

「もとの? もとの、何じゃ? わしは、そなたの、もとの、何じゃ?」

「も、もとの、御主人でござります」

と、やっとの思いで、三郎兵衛は、答えて、逃げ出そうとしたが、膝がしらの力が抜けて、動かれぬ。

「もとの主人? うむ、覚えていたか? して、その名は、何と言うた? 忘れたかな?」

「いえ、いえ、何で忘れましょう――あなたは、松浦屋の旦那さま」

「ひ、ひ、ひ、なるほど、思い出したな? よくぞ思い出しおったな? その松浦屋、そなたの手引きで、奸しまの人々の陥穽に陥り、生きながら、怨念の鬼となり、冥府に下って、小やみもなく、修羅の炎に焼かれての、この苦しみ――おのれ、この怨み、やわか、晴らさで置こうや! 三郎兵衛、おのれ、いで、魂を引ッ掴んで、焦熱地獄へ――」

と、いい表わし難い、鬼とも、夜叉とも、たとえようのない異形を見せて、長い鉤爪を伸ばして、つかみかかろうとするのを、