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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

八

「ほー人くさいぞ!」

八

雪之丞、だしぬけに、不思議な嗄れごえのつぶやきを耳にして、暗々たる杜の中に、ハッと立ちすくんでしまった。

老い、掠れた声がなおつづく。

「人臭いぞ――路上にすがたがないのに、人臭いとは、いぶかしいな? ふうむ、さては物とり追剥のたぐいでも、この杜中に隠れておるかな?」

そして、杖で、大地を、トンと突くような響きがして、

「これ、物蔭にうごめいているのは、何者じゃ? 姿を見せい! この界隈に、魑魅魍魎を住まわせぬことにしている、このじじいに、貴さまの、異形をあらわすがよい。さも無いとことに於いては、この破邪の杖が、ずうんと、飛んでゆくぞよ」

雪之丞は、怪しくも、この低い、地を這うような音声に威迫された。

――おのれ! 貴さまこそいぶかしい奴――他人の大事の瀬戸際に、邪魔を入れようとしおって! 猛然として、圧迫をはじき返そうと、心で叫んだが、相手は、まるで、こちらの心中を読み取ったように、

「突いて来るか、斬って来るか? ハ、ハ、面白い。早う出い。出ればよいのだ」

雪之丞は、殺気を削がれた。

――何者だろう? ひどく、年を取っている奴のように思われるが――