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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

三

「は?」

若い、やさしげな娘は、聴き違いではないかというように、浪路の顔を見上げた。

「湯室の用意をしや」

「でも、おからだに――」

浪路は微笑した。

「いいえ、大事ない。今日は、すぐれて心地よいゆえ、湯を引いたなら、もっともっと気持が晴れるであろうと思うのじゃ。早うしてたも」

浪路が、笑顔を見せれば、一家中は、それが何よりなのだった。

三斎屋敷の奥向は、急に活気づいて来た。

浪路は、檜の香の高い風呂の中で、澄み切った湯に、すんなりした手足を透かして見て、心からのほほえみが止まらないのだった。

三

その頃、雪之丞が、松枝町屋敷玄関先まで艶姿をあらわしたとき、

「いえいえ、夜分と申し、お敷居外にて、どうぞおいとまを――御前のお目通りなぞ、あまりに恐れ多うござります」

と、平に辞退したに拘らず、切なるすすめで、三斎の居間に招じ上げられてしまったのだった。

三斎は、ひどく興味を持ってしまったこの上方役者の来訪をよろこんで、何かと歓待を忘れなかった。何かの参考にもなろうかと、見つけて置いたなぞいうて、梁塵秘抄そのほかの、稀らしい古謡の写し本をあまた取らせ、一ぱしその道の通のこととて、さまざま物語りに更かしていると、そこへ、例の老女が現れて、