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ゆきのじょうへんげ

雪之丞変化

三上 於菟吉

「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页

青空文庫

九

――

近づくのを、物の数でもなげに、笑みをふくんで眺めている雪之丞の前に、立ちはだかると、

「こりゃ、生れぞくない――今、門倉うじ仰せの通り、汚らわしい身を以って、剣法をもてあそぶ奴、生けては、この場を立たせぬのだ。覚悟するがいいぞ」

「ま」

と、雪之丞は、女のように、紅唇の間から、白い前歯をチラリとさせて、

「なるほど、生れぞくないと、おっしゃるとおり、男ながら、女のように装うている、役者風情のわたくしに、立派な剣者のあなたがお負けなされては、他の聴えもいかが、お腹立ちも尤もながら、勝つものは、いつも勝ち、負けるものは、いつも敗れるが、術の道――生けて、立たせぬと仰せられても、立つ、立たぬは、わたくしの自由と思いますが――」

「おのれ、いわせて置けば!」

さすがに、刀に手はかけなかったが、掴み直した、南蛮鉄の鉄扇、一尺五寸もあるのを、振り上げさまに、

「えい!」

と打ち込んで来る。

「おたわむれを!」

と、雪之丞、なまめかしく居くずれたまま、上体を、ほんの少しかわしたのだが、見当がちがった助次郎、タ、タ、タ、たたらを踏んで、よろめいて来るのを、サッと、白い手を閃かして、小腕を打つと、脆くも、取り落す鉄扇――