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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
「朝日新聞」1934(昭和9)年11月~1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 344,083 字 · 673 页
一九
「放せ! 無礼もの!」
と、叶わぬ身に、身悶える浪路を、奥の方へ、引きずって行こうとするその折だった。
二人が、浪路をかついで潜ろうとする、汚れ切ったのれんのかなたで、
「やかましい! 蛆むしめら!」
と、ドス太い声。
「何だ、わりゃあ!」
と、丑が目を剥く。
婆さんが、立ひざで、
「坊さん、わるいところで、目を醒したね」
一九
否もうと、叫ぼうと、手とり足とり、木賃宿の奥の一間の暗がりに、美しき浪路をかつぎ入れようと、荒立って、のれん口へかかった、丑、為の雲助、突如として、鼻の先で、野太い声が、そうきめつけたので、少なからずたじろいだが、利かぬ気の丑、
「おッ! どいつだ! どいつが、ひとの咎め立てなんぞしやがるんだ!」
「わしじゃ! わしが訊いているのだ」
と、ぬッと突き出された、いが栗あたま――眉太く、どんぐり目、口大きく、肩幅は、為、丑二人を合せても敵うまい――六尺ゆたかの大坊主――素布子の、襟のはだかったところから、胸毛がザワザワと伸びたの迄が見える。
「う、うぬたあ、何だ!」
と、為が、たじろいで叫んだとき、気早の拳固を突き出して、
「どけ! 糞坊主、この界隈で、知らねえもののねえ、おれ達のすることに、ケチをつけやがると、腰ッ骨を叩き折るぞ! おれさまたちのなさること、九拝三拝、数珠をつまぐって、拝見していろ