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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

四

民部のこころは躍っていた。けれどもうわべはどこまでもぼんやりに見せて、たえず、船中に目をくばっていたが、どうもこの船にはそれらしい者を、かくしているようすが見えない。で、いちじはちがったかと思ったが、梅雪をおとずれたという事実は、どうしても、民部には見のがせない。

船は、その翌日、闇夜にまぎれて、堺の沖から、ふたたび南へむかって、満々と帆をはった。

四

伊那丸は、日ならぬうちに気分もさわやかになった。それと同時に、かれは、生まれてはじめて接した、大海原の壮観に目をみはった。

ここはどこの島かわからないけれど、陸のかげは、一里ばかりあなたに見える。けれど、伊那丸には、龍巻の手下が五、六人、一歩あるくにもつきまとっているので逃げることも、どうすることもできなかった。

「ああ……」忍剣を思い、咲耶子をしのび、龍太郎のゆくえなどを思うたびに、波うちぎわに立っている伊那丸のひとみに涙が光った。

「なんとかしてこの島からでたい、名もしれぬ荒くれどもの手にはずかしめられるほどなら、いッそこの海の底に……」

夜はつめたい磯の岩かげに組んだ小屋にねる。だが、そのあいださえ、羅刹のような手下は、交代で見張っているのだ。