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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

三

「いいや、もうたいしたことはございません」

菊村宮内はさびしく笑って、

「おまえさんこそ、きょうはだいぶ歩きましたから定めしつかれたであろうと、さっきから休み場所をさがしているが、どうも、たいへんなこんざつで……」

「ご心配くださいますな、けっして、わたしはなんともありゃしませんで。ハイ、行者さまわたしはきのうのことを思いますと世の中には、ありがたいお人もあるものと思わず涙がこぼれてしようがありません」

「なにをいいなさる。あれしきのこと」

「わたしの難儀の身代りになって、あの人足たちに、打たれるやら、蹴られるやら、それでも、おまえさまは手出しもせず、ジッとがまんしていなすったから、とうとう気絶してしまいなされた」

「それでも、死ななかったのは、お地蔵さまのお加護です」

「わたしの眼から見ますと、あなたさまのおからだに、あの時、後光がさしていたようでした」

「とんでもない、わたしはくだらない凡人ですよ」

世間に鬼はない。

いまもふたりが立ち話をしていたごとく、その男女のすがたを見かけると、とある町家の軒下から、

「もしもし、お地蔵さん、ここへきてやすみなさいよ」