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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

変現千畳返し

一

いっぽう、あやしげな親船を逃げだした鼻かけ卜斎の八風斎。たちまち加賀の美川ヶ浜に上陸して、陸路越前の北ノ庄へ帰りつき、主人勝家に、裾野陣のありさまを残りなく復命した。

そして勝家は、ちかごろひんぴんと領海をあらす海賊に討手を向けたが、すでに、紅帆呉服船の行方はまったく知れなかった。

変現千畳返し

一

「あ、あ、あア――」

と、煙草くさいあくびを一つ。

「だいぶ遊んでしまったな、もう陸へあがって四十日目か。おやおや都入りのとちゅうで、おもわぬ道草を食ってしまったわい……」

ひとりごちながら寝台をおり、二階の窓ぎわへ、唐風の朱椅子をかつぎだして、そこへ頬杖をついたのは、こういう異人屋敷にふさわしい和田呂宋兵衛。

そとは海――それも鯖の背のような、あお黒い冬の海。

昼の陽ざしも、こたえがなく、北日本特有の寒風が、槍のごとく波面をかすッて、港泊りの諸船の帆ばしら、ゆッさゆッさとゆさぶれあうさま、まるで盥のなかの玩具を見るよう。

その港を、どこかといえば、賤ヶ岳を南にせおい、北陸無双の要害ではあり商業の繁昌地。――陸には南蛮屋敷があり、唐人館の棟がならび、湾には福州船やスペイン船などの影がたえない角鹿(いまは敦賀と書く)の町である。