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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

三

もう日が暮れている。

とざした門をホトホトとたたくと、なかから婆さんがガラリとあけて、灯影に立った可児才蔵のすがたをいぶかしそうに睨めすました。

「だれだい燕作さん、この人は村ではいっこう見たことがないかたじゃないか」

「このおかたは、姿こそ、変えておいでなさるが、福島正則さまのご家臣で可児才蔵というお人、昌仙さまの密書で、わざわざ安土城からおいでくだすったのだ」

と説明すると、蚕婆はにわかに態度を変えて、下へもおかぬもてなしよう。茶を煮たり酒をだしたりしてすすめた。

三

「それはようおいでなされました。さだめし、昌仙さまのお手紙で、多くの軍兵を秀吉さまからおかしくださることになるのでございましょうね」

「いや、とにかく軍師と会って、そうだんをしてみたうえじゃ。ところがこれなる燕作のもうすには、しょせん人穴城へは入れぬとのこと、せっかくここまでまいりながら、呂宋兵衛どのにも軍師にも、会わずにもどるとは残念千万」

「いえいえ。そういう大事なお使者なら、たった一つ人穴城へぬける秘しみちへ、ごあんないいたしましょう。これ燕作さん、おめえちょっと、裏表にあやしいやつがいないかどうか検めておくれ」