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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
四
ちぎれた布の一片は、忍剣の手につかまれたまま、よろよろと二、三歩よろけたが、野幕の帳のあいだなので鉄杖のあつかいも自由にゆかず、みすみす、黒豹のように逃げこんでゆくうしろすがたに、
「待て、待て」
と叫びながら、手に残った黒い布をほうり捨てると、そのはずみに妙な粘力を腕に感じたので、思わず、オヤとふりかえると、その肩さきへ、いったん地にすてた黒衣がフワッと勢いよく跳びついてきた。
「やッ」と、肩をすかした。
その首ッ玉をおどりこえて、目の前へ、軽業師のようにモンドリ打ったものを見ると、どうだろう、思いがけない、まッくろな烏猫、くびわに銀玉の鎖をかけ、十字架をつけているではないか。
その銀玉の鎖と十字架をチリチリチリ……と鳴らしながら、幕のすそをかわいらしく馳けだしたので、
「蛮流の妖術師め、さては、うまく姿をかえたな」
鉄杖を持って追いまわすと、猫はなおチリチリと逃げだして、とつぜん、向こうのすみに、萩や桔梗や秋草のたぐいを入れ交ぜに、挿けこんである大きな壺の口へ、ポンと、飛びこんでしまった。
と見て、忍剣は、
「得たり!」
と、いきなり鉄杖を槍のようにしごいて、大瓶の横ッ腹へガンと勢いよく突ッかけた。