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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

黒衣の義人

一

「あア忍剣はどうした……忍剣はもうあの湖水の藻くずとなってしまったのか」

いまとなって、しみじみと思いだされてくるのであった。

「忍剣、忍剣。おまえさえいれば、こんな野武士のはずかしめを受けるのではないのに……」

唇をかんで、転々と身もだえしていると、なにか、とん、とん、とん……とからだの下の地面がなってくる心地がしたので、

「はてな? ……」と身をおこすと、そのはずみに、目のまえの、二尺四方ばかりな一枚石が、ポンとはねあがって、だれやら、覆面をした者の頭が、ぬッとその下からあらわれた。

黒衣の義人

一

山大名の根来小角の殿堂は、七つの洞窟からできている。その七つの洞穴から洞穴は、縦に横に、上に下に、自由自在の間道がついているが、それは小角ひとりがもっている鍵でなければ開かないようになっていた。

また、そとには、まえにもいったとおり、二つの洞門があって、配下の野武士が五人ずつ交代で、篝火をたきながら夜どおし見はりをしている厳重さである。

今宵もこの洞門のまえには、赤い焔と人影がみえて、夜ふけのたいくつしのぎに、何か高声で話していると、そのさいちゅうに、ひとりがワッとおどろいて飛びのいた。