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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
二
そして、甲信両国の追分に立ったとき、右手の道を、いそいでいく男のかげがさきに見えた。
「ははあ、きゃつは、柴田の廻し者上部八風斎だな、これから北ノ庄へかえるのだろうが、とても、勝家の腕ではここまで手が伸びない。やれやれごくろうさまな……」
苦笑を送ってつぶやいたが、じぶんは、それとは反対な、信濃堺の道へむかって、足をはやめた。
二
法師野の部落は、それから一刻ともたたないうちに、昼ながら、森としてしまった。たださえ兇暴な野武士が焼けだされてきた日には、どんな残虐をほしいままにするかも知れないと、家を閉ざして村中恐怖におののいている。
はたして、その日の午後になると、この部落へ、いような落武者の一隊がぞろぞろとはいってきた。各戸の防ぎを蹴破って、
「ありったけの食べ物をだせ」
「女老人は森へあつまれ、そして飯をたくんだ」
「村から逃げだすやつは、たたッ斬るぞ」
「家はしばらくのあいだ、われわれの陣屋とする」
好き勝手なことをいって、財宝をうばい、衣類食い物を取りあげ、部落の男どもを一人のこらずしばりあげて、その家々へ、飢えた狼のごとき野武士が、わがもの顔して、なだれこんだ。