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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
仲直り
一
見るまに、それを一手として、つぎには、大岩山、木之本附近、岩崎山のとりでとおぼしきところから山火事のような黒煙がうずをまいて、日輪の光をかくした。と思うと、余呉の湖水や琵琶の大湖も、銀のつやをかき消されて、鉛のような鈍色にかわってくる。
「ああ、敗れた!」
神官は手にもてる笙のような声でさけんだ。
「賤ヶ岳のとりでも落ちた――柳ヶ瀬の陣も総くずれだ――柴田勢はとうとう秀吉のためにほろぼされる運命ときまった……」
いかにも悲痛な色をうかべた。
神官のひとみには、かすかな涙の光さえみえる。
そして、亡国の余煙をとむらわんとするのか、おがむように笙を持って、しずかに、その歌口へくちびるをあてた。
壮な音色、悲愁な叫び、または々としてさわやかに転変する笙の余韻が、志賀のさざ波へ微に妙によれていった――
「宮内さま、――菊村さまア!」
すると、その笙の音をたよりにして、岩々たる島の根を漕ぎまわってくる小船があった。
呼ぶこえ、櫓の音。船のなかにはひとりの若い漁師が、櫓柄をにぎって、屏風のような絶壁をふりあおいでくる。
「おう、源五か」
天狗の爪からのびあがって、こう答えた神官は、すなわち菊村宮内である。