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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

二

と、すぐにまたそこへ一つの人かげ、ヒラ――とこなたへかけてきて、

「婆、いそげ!」

と、あとには目もくれずに、屋敷のそとへ走りだした。いうまでもなく、呂宋兵衛と蚕婆で、さきに、屋敷の小者のふりをして、貴人の僧をさそいだしていったのは、早足の燕作であった。

その燕作は、いましも、三人の僧を早く早くと急かしながら、朱雀の馬場を右にそって、しだいに道を天ヶ丘の方角へとって駈けている。

「待てまて、小者まて!」

従僧のひとりが、ふいに足をとめて、

「こうまいっては、嵯峨の方向とはまるで反対ではないか。仁和寺へまいるのであるぞ」

「心得ております」

「心得ておりながら、なんでかようなところへ、あんないするのじゃ」

「まアだまって、わっしについておいでなさい。どうせあなたがたは、甲州の田舎者、都のみちは、ごあんないじゃありますめえが」

「まだ、いうか」

飛びかかッた従僧のひとり、燕作の襟がみをつかんでグッとうしろへ引きたおした。

「無礼なやつめ、甲州の田舎者とはなにをいうのじゃ、おそれ多くもこれにわたらせらるるは……」

怒りのあまり、口をすべらしかけると、別のひとりがハッとしたようすで袖をひいた。