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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
五
「伊那丸さまが――あとのふたりも? ――」
くわっと、眼をひらいて、宇宙に眸をさまよわせたが、
「こうしてはおられない!」
また、ものぐるわしくそこを立った。
いても立ってもいられない焦燥である。
その驚愕とうろたえのさまは、鞍馬の竹童として、いつにない取りみだしようだ。はね起きたが、その足を向けようとする方角にも、迷いともだえがからんでみえる。
「アア、どうしたらいいだろう」
三方ヶ原は渺として、そこには、ただようようにうすれてゆく夕陽の色があるばかりだ。
「はやく、小太郎山にのこっている、一党の人たちへ、この大事を知らせるのが、一ばんいい工夫だけれど、そんなことに、四日も五日もかかっていては間に合いはしない。エエ、どうしたらいいだろうッ……」
歯を食いしばったまま、湧きたつ胸を、両手でギュッとだきしめた。
「どうして、伊那丸さまが……おまけに龍太郎さまや忍剣さままでついていて、やみやみと、徳川家の手へつかまっておしまいなされたのであろう。アア、だけれど、いまはそんなことを考えている間などない。おいらの頭の上へ降りかかってきた使命は――どうして、はやくこのことを、小太郎山へ知らせてあげるか、どうしたら伊那丸さまをお助けすることができるか、この二つだ! この二つが目のまえの大事だ」