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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

二

「その入道なれば、わざわざこれまでお登りなさるまでもないこと」

「や! では、そこにおさえているやつが?」

「オオ、山県蔦之助が伊那丸君へ、初見参のごあいさつがわりに、ただいまそれへおとどけもうすでござろう」

いうかと思えば、若き武芸者――それはかの近江の住人山県蔦之助――カラリと左手の弓を投げすてて、梅雪入道の体に双手をかけ、なんの苦もなくゆらッとばかり目の上にさしあげて、

「それ、お受けあれや龍太郎どの!」声と一しょに梅雪の体を、丘の下へ、投げとばしてきた。

二

スポーンと紅葉の茂りへおちた梅雪のからだは、のごとくころがりだして、土とともに、ゴロゴロと熊笹の崖をころがってきた。龍太郎は、心得たりと引ッつかんで、さらに上なる人をあおぎながら、

「山県蔦之助どのとやら、まことにかたじけのうござった。そもいかなるお人かぞんじませぬが、おことばに甘えて初見参のお引出もの、たしかにちょうだいつかまつった。お礼は伊那丸さまのご前にまいったうえにて」

「拙者もすぐあとよりつづきますゆえ、なにぶん、君へのお引合わせを」

「委細承知、はや、まいられい!」

ヘトヘトになった梅雪を小わきにかかえた龍太郎は、さっき乗りすててきた駒のところへと、いっさんにかけおりていった。