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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

兵法大講会

一

そして、かれの姿が、犬ころのように、宿場のはてへ見えなくなると、竹童はもうそれを放念したごとく、

「はてな、伊那丸さまやほかのかたがた……もうお見えになりそうなものだが」

と、つぶやいて、べつな方角へさまよわせた眸を、ふと、狛犬のうしろにむけた。

と――そのかげに見なれない巡礼すがたのおばさんがボンヤリと立っていて、自分のほうを穴のあくほど見つめていたので、竹童はボッと顔をあかく染め、あわてて眸をひッこめたが、お時のほうはものいいたげな微笑を送りながら、

「坊、おまえは、いくつだネ?」

と、そばへ寄ってきた。

竹童はきまりが悪そうに、もじもじとあとへ足を引っこめた。見たこともない坂東巡りの巡礼女が、いきなり年をきいたりジロジロと顔ばかり見つめてくるのが、なんとなくうす気味のわるいようでもあった。

「いくツ? おめえは今年いくつになったえ?」

「…………」

「家はどこ?」

「…………」

「この御岳のまわりかい、それとも、もっと遠い在郷かね?」

「…………」

竹童は小指の爪をかんでいる。

だれにでも、打てばひびく調子で、鮮明率直なことばのでるかれも、そのやさしい問いには一句も返辞ができないで、ただふしぎな巡礼のおばさんよと、あいての身なりをながめ入るのみだった。