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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
五
武田滅亡の末路をながめて、悲憤にたえなかったかれは、伊那丸の行方を、今日までどれほどたずねにたずねていたか知れないのだ。
「これこそ、まことに天冥のお引きあわせだ。拙者もこれよりすぐに、富士の裾野へむけて出立いたす、竹童とやら、またいつかの時にあうであろう」
「ではあなたも裾野へかけつけますか、わたしもいそがねば、伊那丸さまの一大事です」
「おお、ずいぶん気をつけていくがよい」
「大じょうぶ、おさらばです」
竹童はふたたび鷲の背にかくれて、舞いあがるよと見るまに、いっきに琵琶湖の空をこえて、伊吹の山のあなたへ――。
いっぽう、山県蔦之助は、その日のうちに、武芸者姿いさましく、富士ヶ根さして旅立った。
五
「まだきょうも空に見えない、ああクロはどうしたろう……?」
毎日高尾の山巓にたって、一羽の鳥影も見のがさずに、鷲の帰るのを待ちわびている者は、加賀見忍剣その人である。
快風一陣! かれを狂喜せしめた便りは天の一角からきた。クロの足にむすびつけられた伊那丸の血書の文字、竹童がもたらしてきた果心居士の手紙。かれははふりおつる涙をはらいつつ、二通の文字をくり返しくりかえし読んだ。