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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

二

そして、その手をふって明るく笑った。あたかも肉親の邂逅のように。

「さて、眼前にまだ一攻めいたす桑名城もござるゆえ、ゆるりとお話もいたしかねるが、お迎えもうしお返しせねばならぬ一品。おじゃまではあろうなれど、小太郎山のとりでへ、土産としてお持ちかえり願いたい」

床几になおって、羽柴秀吉、こういうと手の軍扇を膝にとってかまえながら、

「市松! 市松!」とおごそかに呼ばわった。

「はッ」

という幕かげの答え。主命によって、いまそこへ、控えたばかりの福島市松、一箇の鎧櫃をもって、秀吉と伊那丸の中央にすえた。

「伊那丸どの、お返し申す品はこのなかにある。すなわち、それは武田家のご再興になくてかなわぬ什宝、御旗楯無の名器でござりますぞ」

「や、ではこの中に、御旗楯無の宝物が?」

「秀吉の手にあるわけは、あの和田呂宋兵衛めが、人穴城におったころ、京へ売りつけにきた物をもとめておいたからでござる。もとより、もとめる時からこの秀吉には用のない品、いつかそこもとの手へ返してあげたいと念じていたのじゃ、どうぞ、あらためて貴手へお受け取り願いたい」

武田家無二の什宝――御旗楯無。