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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

二

ふたりはすぐに篝をはなれて立ち、バラバラと砦の一の柵まで迎えにかけだした。

二

ここは大将の陣座とみえて、綺羅ではないが巨材をくんだ本丸づくり、おくには武田菱の幕がはりまわされ、そのなかにあって、当の武田伊那丸は、いましも、軍師小幡民部から、呉子の兵法図国編の講義をうけているところであった。

そばには、咲耶子もいて、氷のような板敷にかしこまり両手を膝において、つつしんで聞いている。

と――、幕をはらって加賀見忍剣、

「わが君」

と声をかけた。

「おお忍剣、なんであるな」

「ご講義ちゅうでござりますか」

「いや、兵学のつとめも、ちょうどおわったところじゃ」

「では、せんこく帰陣しました山県、巽のふたり、すぐこれへ召入れましてもよろしゅうござりましょうか」

「オオ、北国と徳川領へさぐりにいったふたりのもの、日ごとに帰りを待っていた。すぐここへ呼んでよかろう」

「はッ」

幕をおとして忍剣のすがたが消えると、やがてふたたびその幕がはねあげられ、山県蔦之助と巽小文治、それに龍太郎と忍剣もつづいて、伊那丸の前へひざまずいた。

「雪中の細作、さだめし難儀にあったであろう」

と伊那丸は、まずふたりの使いをねぎらって、