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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

二

二

まもなく、かれはゆうべの夢を実行して、京から大阪、大阪から奈良の空へと遊びまわっている。町も村も橋も河も、まるで箱庭のような下界の地面がみるみるながれめぐってゆく。そのあげくに、ふと思いついたのは、おととい忍剣のいったことばである。

「オオそうだ、なんでもきょうあたりは、富士の裾野に大そうどうがあるはずだ。おいらはまだ生まれてから戦いというものをみたことがない。これから一つ裾野までとんでいって、勇ましいところを空から見物してやろう」

つねづね、果心居士からよくお叱言ばかりいただいているくせに、竹童はもう鞍馬山へ帰るのもわすれて、こんな大望をおこした。思いたっては、矢も楯もたまらないかれだった。すぐその足で、富士の姿を目あてに鷲をとばした。いかなる名馬で地を飛ぶよりも、こうして空中を自由に飛行する快味は、まるでじぶんがじぶんでなく、生きながら、神か仙人になったような愉快さである。――だが、ここまできたときとちがって、鷲はそれから先一向竹童の自由にならない。富士の裾野とは方角ちがいな、北へ北へと向かって、勝手に雲をぬってとぶ。

「やい、クロ。そんなほうへいくんじゃない、こらッ、こらッ、こらッ!」