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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

二

二

地から湧いたように、忽然と、人無村をつきぬけて、ここへかけつけてきた軍勢は、そもいずれの国、いずれの大名に属すものか、あきらかな旗指物はないし、それと知らるる騎馬大将もなかには見えない。ふしぎといえばふしぎな軍勢。

海に船幽霊のあるように、広野の古戦場にも、また時として、武者幽霊のまぼろしが、野末を夜もすがらかけめぐって、草木も霊あるもののごとく、鬼哭啾々のそよぎをなし、陣馬の音をよみがえらせて、里人の夢をおどろかすことが、ままあるという古記も見える。

それではないか?

この軍勢も、その武者幽霊の影ではないか、いかにも、まぼろしの魔軍のごとく、天のごとく、迅速な足なみだ。

「おうーい、おうーい」

魔軍はまた、潮のように呼んでいる。

時しもあれ――

ほど遠からぬところにあって、亀井武蔵守の、精悍なる三河武士二、三百人に取りまかれていた武田伊那丸の矢さけびを聞くや、魔軍は忽然と、三段に備えをわかって、わッとばかり斬りこんだ。

ときに、矢来の声があって、伊那丸をはじめ苦境の味方を、夢かとばかり思わせた。

「やあ、やあ、若君はご無事でおわすか、その余のかたがたも聞かれよ、すぐる日、小太郎山へむかった木隠龍太郎、ただいまこれへ立ち帰ったり! 龍太郎これへ立ちかえったり!」