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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

四

「ちぇッ」と舌うちして襟くびをなでた。こんどは大へん、なでた手がチクリと刺された。

「なんだろう、さっきから――」

そッとさぐってみると、こいつはふしぎ、針だ、キラキラする二寸ばかりの女の縫針。

「あッ!」

そのとたんに、竹童はおもわず肱をまげて顔をよけた。まえの萱葺屋根の家から、射るようなするどい目がキラッとこちらへ光った。

「降りろ、小僧!」

見ると、百姓家のやぶれ廂の下から、白い煙がスーッとはいあがっている。そこには、ひとりのお婆さん、麻のような髪をうしろにたれ、鍋や、糸かけを前に、腰をかけて、繭を煮ながら、湯のなかの白い糸をほぐしだしている。

四

柿の木から飛びおりた竹童は、はじめてそこに人あるのを知って、軒先に近より、家の中をのぞいてみると、奥には雑多な蚕道具がちらかっており、土間のすみの土べっついのまえには、ひとりの男がうしろ向きにしゃがんで、スパリ、スパリ、煙草をつけながら火を見ている。

「ごめんよ、あれ、お婆さんとこの柿の木だったのかい?」

竹童は繭の鍋をのぞきながら、たッた一つおじぎをした。

婆さんは、ぎょろッとした目をあげて、

「人みしりをしねえ餓鬼だ。