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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

三太郎猿の早飛脚

一

ところが、果然その直覚はあべこべで、手に手に細身の刀、小太刀を持ち、外に待ちかまえていた者たちは、館の武士とも思われない黒の覆面、黒のいでたち。

人数はおよそ三、四十人、しかもみな、柳の精か、梅の化身か、声すずしく手は白く、覆面すがたに似合わないやさしいすがたの者ばかりで、甲、乙、丙、丁、どの影もすべて一体の分身かと思われるほどみなおなじ背かたちだ。

「それ、蛾次郎を生け捕れ!」

なかのひとりがこうさけぶと、閃々たる小太刀の陣は霜の歯車のように、かれのまわりをグルリとめぐって、有無をいわさず、蛾次郎を高手小手にしばりあげる。

「や、燃えあがった――」

「おくれては一大事」

「奥へ、奥へ」

すでに馬糧小屋の火は屋根から空へもえ抜けて、あかあかとした反映が躑躅ヶ崎一帯の建物を照らした。

「蛾次郎はどうしましょうか」

「捨ててゆけ、この場合じゃ」

「捨ててゆくのもせっかく、おお、むこうの厩の柱へ、しばりつけて――」

「なにしろ、すこしも早く奥庭へ」

「源氏閣へ、源氏閣へ!」

散りぢりに呼びあい、叫びあいながら、柳姿の覆面三、四十人、芒とそよぐ刃をさげて、長屋門の番士を斬り、いっきに奥へはしり入った。