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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

四

四

「親方――ッ」

と泣きごえをだした蛾次郎は、そのとたんにいきなり、突っかけてきた槍の柄にむこうずねをたたかれ、ワッといって、打ッたおれた。

あとはおそらく、蛾次郎じしんにも、むちゅうであったにちがいない。とにかく、ひとりや半分の敵ではなく十数人――あるいは二、三十人もあったろうと思われる甲冑の武士が、なにも知らずにいるところへ、なにもいわずに、ズラリと槍の尖をそろえてきたのだから、胆は天外に吹ッとんでいる。

一どたおれた蛾次郎は本能的にはねかえって、起きるが早いか、そばの大樹へ、無我夢中によじのぼった。

猿のように梢へのぼるとちゅうでも、秀吉方の甲冑武者に、槍の柄でピシリッと叩かれたが、それさえ、必死であったので、痛いともなんとも性にこたえなかった。

そして、運よく大樹の枝先が、弁天堂の上へおおいかぶさっていたのを幸いに、かれはヒラリと身をおどらして、枝から屋根へ飛びうつり、てんてんと影をおどらせて、やっと竹生島の磯へかけ下りてきた。

するといっぽうの急坂からも、血路をひらいた卜斎が、血刀を引っさげてこの磯へ目ざしてきたので、ふたりは前後になって磯の岩石から岩石を飛びつたい、やがて、一艘の小舟を見つけだすとともに、それへ飛び乗って櫓をおっとり、粘墨のように黒い志賀ノ浦の波を切って、いずこともなく逃げのび