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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
水火陣法くらべ
一
水火陣法くらべ
一
胡蝶の陣! 胡蝶の陣!
裾野にそよぐ穂すすきが、みな閃々たる白刃となり武者となって、声をあげたのかと疑われるほど、ふいにおこってきた四面の伏敵。
野末のおくにさそいこまれて、このおとしあなにかかった穴山梅雪入道は、馬からおちんばかりにぎょうてんしたが、あやうく鞍つぼに踏みこたえて、腰なる陣刀をひきぬき、
「退くな。たかの知れた野武士どもがなにほどぞ、一押しにもみつぶせや!」
と、うろたえさわぐ郎党たちをはげました。
音にひびいた穴山一族、その旗下には勇士もけっしてすくなくない。天野刑部、佐分利五郎次、猪子伴作、足助主水正などは、なかでも有名な四天王、まッさきに槍の穂をそろえておどりたち、
「おうッ」
と、吠えるが早いか、胡蝶の陣の中堅を目がけて、無二無三につきすすんだ。それにいきおいつけられたあとの面々、
「それッ。烏合のやつばら、ひとりあまさず、討ってとれ」
と、具足の音を霰のようにさせ、槍、陣刀、薙刀など思いおもいな得物をふりかざし、四ほうにパッとひらいて斬りむすんだ。
「やや一大事! だれぞないか、伊那丸の駕籠をかためていた者は取ってかえせ、敵の手にうばわれては取りかえしがつかぬぞッ」