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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
二
二
天空のふたりは、朝から今まで、たがいに、飲まず食わずである。
竹童は、蛾次郎を鷲の背から蹴おとさんとし、蛾次郎は、竹童をふりおとして、じぶんひとりで翼を占有しようとしている。
しかもそれは、寸分の休みもなく走っている鷲の背なかで、天空の上で――行われつつある争闘だ。一しゅんのゆだん、一分のすきでもあれば、鷲じしんにふりおとされるか、そのいずれかが見舞ってくる。朝から飲まず食わずでも、またこれからいく日、一滴の水を口にしないまでも、そんなことは念頭にない。まさに真剣以上の真剣だ。それに早くまいったほうが惨敗者だ。
「やい、蛾次郎!」
かけりゆく鷲の上で、こういう声は鞍馬の竹童。
「なんだ、竹童」
蛾次郎は、ただそれ下界へ蹴おとされまい一念で、鷲の頸毛にダニのようにたかっていた。
「いいかげんに降参してしまえ。そしてこの鷲をおいらに返してしまえ。そしたら命だけは助けてやる」
「いやなこッた。てめえこそ、低いところへ降りたときに、飛び降りてしまやがれ。そしたら命だけたすけてやる」
「こいつめ、人の口まねをするな。おのれ、今にどこかで突きおとしてくれるから見ていろよ」