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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

汝ら! なにを笑うか?

一

汝ら! なにを笑うか?

一

蔦のかけ橋をいっさんにわたって、咲耶子のすがたをあてに走ってきた少女の群れは、みるまに近づいて、さしまねかれた笛の下へ、グルリと、花輪のように集まった。

「――まいりました、咲耶子さま」

「なにかご用でございますか」

「いつになくおわるい顔色」

「どうしました? 咲耶子さま」

「おっしゃってくださいまし、わたくしたちのする用を」

いきいきとした少女たちの眸、みな、なつめのようにクルッとみはって――そしてまだ心配そうに、中央に立ついちばん背丈の高い人を見あげた。

小太郎山にすむ咲耶子と、そこから近い緋おどし谷の者たちとは、しぜん、いつのまにかしたしくなっていた。かれらはみな、咲耶子を山の女神のようにしたい、咲耶子はまたみなを、妹のように愛していた。

ことに、かれらはすべて、おさない時から子守歌にも信玄の威徳をうたった血をもっている甲斐の少女だ。国はほろびても、その景慕や愛国の情熱は、ちいさな胸に燃えている。

げんに。

いま彼女たちが緋おどし谷でつくっている、具足や幕や旗差物や、あるいは革足袋、太刀金具、刺繍、染物などの陣用具は、すべてそれ小太郎山のとりでへ贈るべきうつくしい奉仕だった。