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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

秀吉をめぐる惑星

一

た。

秀吉をめぐる惑星

一

橡ノ木峠の大吹雪――

軍飛脚か狼か雪女よりほかはとおるまい。

ところがひとりのお婆さん、元気なものだ。歓喜天さまのお宮の絵馬を引ッぺがして、ドンドン焚火をしてあたっている。

黒い頭巾をかぶって、姿は気だかい修道士だが、中身は裾野の蚕婆だ。たきびで焼いた兎の肉をひとりでムシャムシャ食べている。

「ここで落ちあうやくそくだのに、どうしたんだろう……にげ損なってやられたのかしら」

同じことを、口のうちでなんどいったか知らない。そのうち麓のほうから、雪をおかしてくる人かげ。

「おお、呂宋兵衛さま」

「婆、待っていたか」

かぶってきた蓙をすてて焚火のそばへふるえついたのは、おなじ姿の呂宋兵衛だった。

「待っていたかもないもんだ、半日もおさきだったあね」

「気の毒だった、捕手に逃げ口をふさがれて、足羽川の上を遠まわりしてきたため、ばかに手間をとってしまった。それはいいが、城中でわたしたアレは落とさずもってきたろうな」

「城中で? おやなにを……」

「この呂宋兵衛が、命がけでとった柴田方攻軍の秘帖、秀吉公への土産にするのだ」

「いいえ、わしはなんにも知りませんよ」