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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
果心居士と愛弟子
一
それらのあわれな物のかげをつづった竹童のすがたは、星影の下にあおく隈どられて見えたが、かれの目には、ただ一粒の春の星さえ、うつらぬのである。
見えぬがために、見ようとする、心の異常なはたらきが、心眼ともいうべき感覚を全身にするどく研いで、右手につかんだ般若丸を、おのれの背なかにかくしながら、
「蛾次郎……蛾次郎はどこへいった!」
八神殿の石段にそって、裏宮の方へしのびやかに歩いてくる。おお、その影のいたましくもおそろしい。
かれは、心のうちでこう叫ぶのだ。
返せクロを! 返せクロを!
おいらの手から横奪りした、あの鷲をかえせ、おいらの手にタッタいまかえせ!
竹童の目は見えないはずでありながら、その一念に、あたかも、なにものかを、的確に見ているように、いうのであった。歩きだすのであった。
でてこい蛾次郎! 泣き虫の腰ぬけ。
でてこい蛾次郎、どこへいった!
よくもよくもクロをうばったな。また、よくもさっきは、この竹童を盲とあなどって、土塊をぶつけたり、お師匠さまの悪口をたたいたり、そして、鞍馬の竹童のことを、天下のお乞食さまとののしり恥ずかしめたな。
おまえはさっきたいそうなじまんをいった。