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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

二

「どれ……」

すこし身を横にかがませて、暁天の闇をすかしたふたりは、なるほど、よくよく眸をこらして見ると、忍剣のいうとおり楼閣の三階目に、うす黒い影が立っているような気がした。

「しかし、あれに人のいるはずはなし、ことによったら棟木の瓔珞ではないか」

「いや、瓔珞がアア大きく見えるはずはない」

「といって、厳重にいましめておいた呂宋兵衛ではなおさらあるまい。ウーム、おや……、影がうごいた!」

「なに影がうごいた? オオ、いよいよあやしい」

「ちぇッ、やっぱり呂宋兵衛だ、どうして自由になりおったか、あれあれ、棟木の瓔珞に身をのばして、塔の屋根によじ登ろうとしておるのだ」

「一大事! それのがすなッ」

「オオ」

三人は疾風のごとく階段をあがって、扉を蹴ひらき、塔のなかへ躍りこんだが、南無三、二階三階へあがる梯子は、呂宋兵衛を頂上にほうりこんだ時、まんいちをおもんぱかって、みんな取りはずしたまま施無畏寺へはこんでしまった。

うっかり、それを忘れて飛びこんだ三人は、じだんだをふんで、

「しまった!」

とふたたびそとへかけだしてきた。

「なんじゃ、なにごとが起ったのだ」

ところへ、木隠龍太郎がくる。