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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

三

だから、その顔を好くものは深くしたしみ、忌みきらうものはまたひどくきらう。

めずらしく、酒宴をのべていた。

多くの近侍や旗本をあいてに、ほがらかな座談。それが倦むと、つづみの名人大倉六蔵に、鼓をうたせて聞きとれる。

そこへ、おそく酒宴にまねかれた、菊池半助が末席にすわった。隠密のものは、禄は高いが士格としては下輩なので、めったに、こういう席に招じられることはない。

半助のすがたをチラリと見ると、

「鼓をやめい」

と盃を取って、

「かれへ」

と、近侍へ取りつがせた。

破格な盃をいただいた半助へ、人々は羨望の目を送った。そして、半助、なにかよほど手柄をやったな、とささやいていた。

そういう様子をながめながら、家康はまた、近う、とかれをまぢかく呼んで、

「数日来のはたらき、まことに、過分である」

と賞めことばをあたえた。めったに、人を賞めない家康、これもあまりないことである。

「は」

とのみいって、半助は平伏していた。

伊賀衆のなかでも、隠密の上手とは聞いたが、なんという光栄をもった男だろうと、人々の目は、いよいよかれと主君とにそそがれていた。

「して、こんどのことに、偉功を立てた、和田呂宋兵衛は、いかがいたした」