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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

九

コトコトとかすかにきこえたものがあった。

「啄木鳥かしら? それとも、狐かな?」

足をすくめて考えた。が――音はそれっきり止んでしまった。

しかし、そこでなにげなく、ヒョイと樹上を見あげたせつなに、かれは目の玉をグルグルとさせて、

「ウーム、これだ、これだ! この樹にちげエねえ」

と、うなってしまった。

数歩、うしろへとびのいて、帯のあいだに差しこんできた銀鋲の短銃を右手につかんだ。

「はアん……おるわエ」

手をかざして樹上をあおぐと、たしかに、神刑にかかっている忍剣のすがたが小さく目にとまった。

そこで蛾次郎は、大久保長安から卜斎につたえられた秘命を思いだして、うなずいた。

「親方がいったのはこいつだな、これを撃ちとめてこいといういいつけか。なアんだ、こんなものなら朝飯まえにただ一発だ。それで、おいらの出世となりゃ、ありがた山のほととぎすさ」

火縄の支度をしはじめた。

「できたぞ」

岩のかげへ身をくっして片足をおって、短銃の筒先をキッとかまえた。

じッと、ねらいをつける……忍剣のすがたへ。

忍剣は身の危険を知るよしもなかった。おそらくかれは、故快川和尚の最期のことば――心頭を滅却すれば火もまた涼し――の禅機をあじわって、二十一日の刑をけっして長いとも思っておるまい。