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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

二

「――民家へ火をつけるな。――罪なき民を傷つけるな。――降を乞う者は斬るな。――和田呂宋兵衛はかならず手捕りにせられよ。以上、おん大将ならびに軍師の厳命でござるぞ。違背あるにおいては、味方たりといえども斬罪」

と、声をからして伝令し去った。

二

「もうだめだ、表のほうは、蟻のはいでるすきもねえ。昌仙さま、昌仙さま、うまいところが見つかったから、はやく頭領をつれてこっちへ逃げておいでなさい」

まっ暗な裏手に飛びだして、あわただしく手をふったのは早足の燕作。ひゅうッ、ひゅうッ、とうなりを立てて飛んでくる矢は、そのあたりの戸袋、井戸がわ、廂、立木の幹、ところきらわず突き刺さって、さながら横なぐりに吹雪がきたよう。

と、暗憺たる家のなかで、丹羽昌仙のひくい声。

「呂宋兵衛さま、裏手のほうが手うすとみえて、燕作がしきりにわめいております。さ、少しもはやくここをお落ちなさいませ」

「ウム」

となにかささやきながら、奥からゾロゾロとでてきたのは、丹羽昌仙、蚕婆、足助主水正、佐分利五郎次、そしてそのなかに取りかこまれた黒布蛮衣の大男が、まぎれもない和田呂宋兵衛か――と思うと、またあとからおなじ黒衣をつけ、おなじ銀の十字架を胸にたれ、おなじ背かっこうの男がふたりもでてきた。