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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

九輪をめぐる怪傑怪人

一

――自体、蛾次郎の腕なり頭なりでは荷の勝ちすぎたこの大鷲が、はたしてかれの自由になるかどうか、ここ、おもしろい見ものである。

九輪をめぐる怪傑怪人

一

法師野の空には平和の星がかがやいている。

今夜ばかりは、部落の人も、はじめて楽しい夢路にはいっているのだ。

老人はご陣屋のほうへ足をむけずに寝ているだろう。嬰児は母の乳房にすがって、スヤスヤと寝ついているだろう。――そして施無畏寺の庭に陣した千人の軍兵も、鞍や物の具を枕にしてつかのまの眠りにつき、馬もいななかず、篝もきえ、陣の幕にしめっぽい夜がふける。

すると、多宝塔のまわりを、ぴた……ぴた……と、しずかに歩いてくる人影。

また、廻廊のかげからも、ふたりの武士が、足音ひそやかに、階段をおりてきた。

「オオ、山県どのに小文治どのか……」

「これは忍剣どの、おたがいに、こよいの寝ずの番、ごくろう」

「どこにも異状はありませぬか」

「かくべつ」

「では後刻に……」

黙礼して左右にわかれる。

カーン、カーン、――水にひびくような寂しい音。時刻番が丑時(午前二時から三時の間)の報らせ。

本陣、おん大将の寝所幕のあたりにも、夜詰めの侍が警固する槍の穂が、ときおり、ピカリ、ピカリとうごいてまわる。