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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

三

折れてもまがっても抜けられる道はないのだ。万事休す――伊那丸は完全に、蜘蛛手かがりという野武士の術中におちてしまったのだ。身に翼でもないかぎりは、この罠からのがれることはできない。

「そうだ、野武士らの手から、織田家へ売られて名をはずかしめるよりは、いさぎよく自害しよう」

と、かれは覚悟をきめたとみえて、うすぐらい林のなかにすわりこんで、脇差を右手にぬいた。

切っさきを袂にくるんで、あわや身につきたてようとしたときである。ブーンと、飛んできた分銅が、カラッと刀の鍔へまきついた。や? とおどろくうちに、刀は手からうばわれて、スルスルと梢の空へまきあげられていく。

「ふしぎな」と立ちあがったとたん、伊那丸は、ドンとあおむけにたおれた。そしてそのからだはいつのまにか罠なわのなかにつつみこまれて、小鳥のようにもがいていた。

すると、いままで鳴りをしずめていた野武士が、八ぽうからすがたをあらわして、たちまち伊那丸をまりのごとくにしばりあげて、そこから富士の裾野へさして追いたてていった。

三

幾里も幾里ものあいだ、ただいちめんに青すすきの波である。その一すじの道を、まッくろな一群の人間が、いそぎに、いそいでいく。