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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

緋おどし谷の少女たち

一

今。

小太郎山の砦は毒にまわされていた。

その扇縄の区域へ、裏切り者がひそかに毒をしずめたので、夕方の兵糧時に、すべての者の腹中へ、おそるべき酔魚草の毒水がめぐっている。

竹童をのこして、陣馬ヶ原お花畑の危変をのがれてきた咲耶子が、とりでの奥郭へとびおりざま、狂気のように、櫓番や武者だまりの侍へ、声をからして、呼んでも叫んでも、ひとりとして、オオとへんじをする者がない。

夜は灯を滅しておく習慣の城塞は、まッくらで、隠森として、ただひとりさけびまわる彼女の声が木魂するばかりだった。

「裏切り者がある。出合え! 出合え!」

なお、こう呼び立てながら、咲耶子はおくの郭から二の郭の中間、桝形の柵まで走ってくると、とうぜん、そこに夜半でも詰めていなければならないはずの武士が、声もなく寂寞として、木戸の口は開けっぱなしになっていた。

はじめて、ここにも大事が湧いているのを知って、咲耶子は、

「あッ」と、息をひいておどろいた。

見れば。

木戸の番小屋の前に、七人の部下が槍をつかんだまま悶々とのた打っている。

また、向こうの柵のそばには、見まわりの三人組が三人とも、胸に一本ずつの短刀をうけて、重なり合ってころげている。