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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

智恵のたたかい

一

智恵のたたかい

一

板子一枚下は地獄。――船の底はまッ暗だ。

空も見えなければ、海の色も見えない。ただときおりドドーン、ドドドドドーン! と胴の間にぶつかってはくだける怒濤が、百千の鼓を一時にならすか、雷のとどろきかとも思えて、人の魂をおびやかす。

その船ぞこに、生ける屍のように、うつぶしているのは、武田伊那丸のいたましい姿だった。

八幡船が遠州灘へかかった時から、伊那丸の意識はなかった。この海賊船が、どこへ向かっていくかも、おのれにどんな危害が迫りつつあるのかも、かれはすべてを知らずにいる。

「や、すっかりまいっていやがる」

さしもはげしかった、船の動揺もやんだと思うと、やがて、入口をポンとはねて、飛びおりてきた手下どもが伊那丸のからだを上へにないあげ、すぐ船暈ざましの手当にとりかかった。

「やい、その童の脇差を持ってきて見せろ」

と舳からだみごえをかけたのは、この船の張本で、龍巻の九郎右衛門という大男だった。赤銅づくりの太刀にもたれ、南蛮織のきらびやかなものを着ていた。

「はて……?」と龍巻は、いま手下から受けとった脇差の目貫と、伊那丸の小袖の紋とを見くらべて、ふしんな顔をしていたが、にわかにつっ立って、